「堀の中の患者様」刑務所医師が見た驚きの獄中生活     日向正光著より抜粋 その2

「それにしても何でこんなに良くなるんだろう?普通と違う状況ってなんだ?規則正しい生活、禁煙、禁酒、禁間食、禁夜食、服薬順守?これでは当たり前すぎる。運動か?作業か?でも1日30分の運動を1週間に2,3回するのみだ。作業も座って行うものがほとんどで、肉体労働と呼べるものではないからカロリーなんて消費しない。では一体なぜ?何が一般社会と違うのか?麦飯?そうか麦飯かー?でも何で?

 

食品成分表で調べてみる。麦飯は食物繊維が多い。日本人の食物摂取量を調べてみると1日平均15g。受刑者はなんと30g

これだ!でも他にももっと食物繊維の多い食品はある。不溶性食物繊維の摂取量は、一般日本人も受刑者もほぼ同じだ。

 

では水溶性食物繊維の場合は、、、一般人と比較して受刑者は5倍以上も摂取している!これだ!」

 

彼は淡々と調査研究の成果をまとめ、国内の学会で発表する機会をうる。それなりにうけはよく、一時ネットでも少し話題になったものの、このまま反響が下火になるのを惜しいと思った彼は、いままできちんとしたデータのある論文がなかったことを調べ、国外で発表する価値があると思い英語論文を仕上げ、アメリカ糖尿病学会(ADA)に演題を応募した。

 

受理されることが難しい権威ある学会で、まさかの受理の知らせを受け彼はアメリカで発表することになるのだが、前例がないと出張扱いされず自費でいくことになる。このあたりのいきさつも面白かったのですが、ここは省略します。



彼が英語論文を仕上げたことは非常に良かった。今、彼の論文は世界中の大麦のβグルカンの健康増進効果の研究者たちに引用されることも多い。彼自身も「糖尿病を改善する食物繊維食のすすめ」(2010年)という一般書までその後出版している。

 

確かな効果があるにもかかわらず、それほど世の中に知られることもなく埋もれてしまっている現象は、まさに明治初期の脚気の話を彷彿とさせる。麦飯が脚気の予防になるという事実があり、それを報告している研究者がいたにもかかわらず、伝染病説や中毒説が主流で栄養欠乏説は受け入れられず当時の陸軍が採用せず、その後も多くの死者を出し続けたことは有名な話だ。ビタミンb1が発見され、ようやく麦飯が採用されることになるのだ。

 

糖尿病治療薬としてのGLP-1の研究は彼の本の出版あたりではまだまだ進んでいなかったし、大麦の研究者によるβグルカンの研究はまさにかれの研究論文がおおきな推進力となって進み、そして腸内細菌の研究者たちによる短鎖脂肪酸と大腸L細胞、GLP-1分泌の研究など進んできた最近になって、まさに彼の2型糖尿病の原因は水溶性食物繊維にありという世界最初の報告の意味がはっきりつながってきたのだ。

 

そして決定的だったのは「糖尿病はグルカゴンの反乱だった」だ。

 

ビタミンB1の発見によってやっと日の目を見た麦飯の効用と全く同様に、複雑な2型糖尿病の原因が水溶性食物繊維の不足という単純な一つの理由(規則正しく朝食を食べることも含めて)であるわけがないという思い込みが、いまなお糖尿病患者の数が増え続けている理由に思えて仕方がない。

 

彼の発見は近い将来ノーベル賞受賞に値するかもしれないと言ったら、頭が麦畑になっているといって笑いますか?

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